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高齢になると、噛む力や飲み込む力が衰え、食事が難しくなることがあります。
そうなることによって食物の選び方や調理方法に工夫が必要になります。
歯や筋力の低下、嚥下機能の衰えが影響し、固い野菜やお肉を避けることで、栄養バランスも偏りやすくなります。また、噛む回数が減ることで唾液の分泌量が低下し、口の中が乾燥しやすくなり、誤嚥のリスクも高まります。
食事を改善するためには、食材を柔らかく調理したり、細かく刻んだりするなどの工夫が必要です。さらに、ゆっくりとした食事時間や正しい姿勢も咀嚼を助け、健康的な食事をサポートできます。
今回の記事では、高齢者の咀嚼機能を改善し、安全で美味しい食事を楽しむ方法について詳しく解説します。
咀嚼とは?
咀嚼とは、食べ物を噛み砕いて唾液と混ぜ合わせ、飲み込みやすくする過程を指します。
咀嚼は、食事中の満足感や食物の風味を感じるためにも重要です。
適切な咀嚼は消化器官への負担を軽減し、栄養の吸収を助ける役割を果たします。
高齢者の咀嚼機能の重要性
高齢者の咀嚼機能は食事摂取と栄養補給の面で重要な役割を果たします。
咀嚼によって食物を細かく砕き、唾液と混ぜ合わせることで消化酵素が働きやくなり消化吸収がスムーズになります。
また、咀嚼することで食物の風味を感じられたり、脳を刺激して満腹感が得られ、食事の満足度が向上します。
しかし、高齢者は歯の損失や咀嚼筋の衰え、嚥下障害などによって咀嚼機能が低下しやすい傾向があります。
そのため、高齢者の咀嚼機能を維持・改善するためには、柔らかい食材や細かくカットされた食事をつくること、食事時間をゆっくりとることが重要です。
また、定期的な歯科検診や適切な歯のケアも欠かせません。
咀嚼機能が低下することで栄養不足や体力の低下が引き起こされることもあるため、高齢者の咀嚼機能には常に配慮が必要です。
以上のように、咀嚼機能の重要性を理解し、食事や生活環境に配慮することで、高齢者の健康と生活の質を向上させることができます。
高齢者の咀嚼機能低下の原因
高齢者の咀嚼機能の低下には様々な要因が影響しています。
1.歯の問題
歯の本数が減少し、噛む力が低下することで、食材をしっかり咀嚼することが難しくなります。
また、咀嚼筋の衰えや舌の運動性の低下も要因の一つです。
さらに、認知症や認知機能の低下によって食べること自体が面倒に感じられることもあります。
2.生活習慣
高齢者の咀嚼機能の低下には生活習慣も大きな影響を与えています。
例えば、運動不足や姿勢の悪さは咀嚼筋の衰えを招く可能性があります。
また、ストレスや孤独感は食事を摂る意欲を低下させることがあります。そして、日常的な口腔ケアの怠りが歯や歯茎の健康に悪影響を及ぼし、咀嚼機能に影響を及ぼします。
これらの生活習慣を改善することによって、高齢者の咀嚼機能の向上につながることが期待されます。
3.疾患
疾患によっては、咀嚼機能に影響を与えるものがあります。
例えば、関節リウマチや顎関節症などの疾患がある場合、口や顎の動きが制限され、咀嚼が困難になることがあります。
また、脳卒中やパーキンソン病などの神経系の疾患も嚥下機能や咀嚼機能に影響を及ぼすことがあります。
高齢者の場合、個人によって様々な疾患が伴うため、定期的な健康診断や医師の診察を受けることが重要です。
疾患によって咀嚼機能が低下する場合には、栄養士や歯科医と連携を取りながら、適切な食事療法や口腔ケアを行うことが大切です。
4.薬剤の影響
薬剤の影響による咀嚼機能の低下は、高齢者にとって重要な問題です。
高齢者は慢性疾患の治療や症状の管理のために多くの薬を服用している場合があります。
これらの薬剤には咀嚼機能に影響を及ぼす副作用を持つものがあります。
例えば、抗うつ薬や抗不安薬は口の渇きを引き起こし、唾液の分泌を減少させることがあります。
そして、唾液の分泌不足は咀嚼や飲み込みを困難にします。
また、鎮痛剤や抗てんかん薬は咬筋の衰えを引き起こし、食事を摂る際の咀嚼力に影響を及ぼす可能性があります。
医師や薬剤師との相談を通じて、薬剤のバランスや副作用について適切な情報を共有し、咀嚼機能の低下を防ぐ取り組みが重要です。
食事が単調になることや、好みの食材が摂れなくなることも咀嚼機能の低下に繋がります。
加えて、特定の疾患や薬の副作用によって口の乾きや食欲不振が起こることも考えられます。
これらの要因が重なり、高齢者の咀嚼機能の低下を引き起こしていると言えます。
高齢者の咀嚼機能低下への対策
高齢になると咀嚼機能の低下が起こりやすくなります。
この状態では、食事を摂ることが難しくなる恐れがありますが、適切な対応を取ることで改善することが可能です。
1.食事の見直し
まず、食材の柔らかさや形状に注意しましょう。
食材の選び方や調理の仕方で咀嚼の負担を軽減できます。
また、食材を細かく刻んだり、ペースト状にしたりすることも有効です。
さらに、食事の時間をしっかり確保し、ゆっくりと噛んで食べることが重要です。
さまざまな食材を取り入れることも咀嚼機能の維持に役立ちます。また、栄養バランスを考えた食事を摂ることも大切です。
さらに、定期的な歯科検診や口腔体操なども咀嚼機能の維持に役立ちます。
普段のお食事に工夫を加えることで質を高め、健康な食生活を維持することができます。
2.正しい咀嚼方法の意識
正しい咀嚼方法には、いくつかのポイントがあります。
まず第一に、口の中でよく噛むことが重要です。
食べ物を十分に咀嚼することで、消化がスムーズに進み、栄養を効率良く摂取することができます。
次に、咀嚼する際は口を開けずに閉じたままで行うことが望ましいです。
口を開けてしまうと、食べ物が飛び出したり、うまく咀嚼できなくなる恐れがあります。
口を閉じた状態で、歯を上下に動かして噛むように心がけましょう。
また、口の中で食べ物を均等に広げることも大切です。
すべての部分が均等に咀嚼されるように注意し、片側だけでなく両側の歯を使って食べ物を噛むことが理想的です。
最後に、食べ物を飲み込む際には、咀嚼が完了してから行うようにしましょう。急いで飲み込むと、消化不良や胃の負担となる可能性があります。
これらのポイントを意識して、正しい咀嚼方法を身につけることで、食事をより楽しむことができます。
3.咀嚼トレーニング
咀嚼トレーニングには、日常的な食事の中で行う方法と、特定の咀嚼トレーニングを取り入れる方法があります。
日常的な食事の中でのトレーニングでは、食材を十分に噛むことで咀嚼筋のトレーニング効果を得ることができます。
固い食材や繊維質の多い食材を選んで摂ることで、咀嚼の回数や時間を増やすことが重要です。また、咀嚼時に口の中で食材をよく動かすよう意識することも大切です。これにより、口腔周囲の筋肉を刺激し、咀嚼機能の改善につながります。
特定の咀嚼トレーニングを取り入れる方法では、ガムを噛むことをトレーニングとして行うことで、咀嚼機能の向上を目指します。
トレーニングを継続することで、咀嚼筋の強化や口腔機能の改善が期待できます。多くの老人ホームを始めとした介護施設でもこのようなトレーニングは取り入れられています。
日常的な食事の中でのトレーニングと特定の咀嚼トレーニングを組み合わせることで、効果的な咀嚼機能の向上が見込めます。
高齢者の咀嚼を支える食事改善のポイント
高齢者の咀嚼を支えるためには、食事内容や食べ方に工夫をすることが重要です。
まず、食材の柔らかさに注意しましょう。
肉類や野菜は蒸したり、茹でたりして柔らかく調理することで、食べやすくなります。また、食材を細かくカットし、喉に詰まらないようにすることも大切です。
次に食事の時間と環境に気を配りましょう。
食事を急いで食べるのではなく、ゆっくりと咀嚼する時間を確保し、リラックスした環境で食事を楽しむことが大切です。
さらに、正しい姿勢を保ちながら食事をとることで、飲み込みやすくなります。食事前に口腔ケアを行い、口内環境を整えることも咀嚼をサポートするポイントです。
これらの食事改善のポイントを意識することで、高齢者の咀嚼を支え、食事の摂取量や栄養摂取量の向上につなげることができます。
咀嚼しやすい食材の選び方について、高齢者の食事改善に役立つポイントを以下にまとめました。
1.咀嚼しやすい食材の選び方
高齢者の咀嚼を考える際には、食材の柔らかさと食べやすさが重要です。
まず、肉類は脂肪分が少なく柔らかい部位を選び、蒸したり煮たりするなど調理法に工夫を凝らします。
また、野菜は蒸したり茹でたりすることで柔らかくなります。また、果物はシリアルなどと混ぜて食べる、果物自体をミキサーやフードプロセッサーで柔らかくするなどして食べやすくすることができます。
食材を細かくカットしたり、ミキサーにかけたりすることも咀嚼をサポートします。
柔らかさや食べやすさだけでなく、風味や栄養価も考慮して食材を選ぶことが大切です。
たとえば、柔らかい果物の中にも栄養価の高いものがあります。栄養バランスを考えつつ、食事のバリエーションを豊かにすることで、高齢者が食事を楽しむことができ、バランスの取れた栄養摂取が期待できます。
2.嚥下しやすい調理法
嚥下しやすい調理法には以下のような調理法があります。
①ピューレ状にする
食材をミキサーで細かく粉砕してピューレ状にすることで、嚥下障害や咀嚼力が低下した方にとって食べやすくなります。また、栄養を効率よく摂取できるようになります。(滑らかで飲み込みやすいのが特徴でミキサー食と呼ばれています。)
②ゼリーやムースにする
食材をゼリーやムースにすることで、嚥下がしやすくなります。寒天やゼラチンを使って食材を固められます。
③とろみをつける
スープやソースにとろみをつけることで、液体が喉を滑りやすくなります。市販のとろみ剤を使ったり、コーンスターチや片栗粉を加える方法があります。
④蒸す・煮る
食材を蒸したり煮たりすることで、柔らかく仕上げることができます。特に肉や野菜はこの方法で調理すると嚥下しやすくなります。
⑤ペースト状にする
食材を細かく刻んでペースト状にすることで、嚥下が容易になります。例えば、魚をペースト状にしてから焼くと柔らかくなります。
これらの調理法で作られた食事は、嚥下食と呼ばれています。嚥下食は、嚥下障害を持つ人々の食事を安全かつ快適にするために役立ちます。
3.介護食の工夫
介護食の工夫としては、食材の選定や調理法に工夫を凝らすことが重要です。
例えば、肉類は蒸したり煮込んだりして柔らかく調理し、野菜も蒸したり細かく刻んで調理することで咀嚼しやすくなります。また、食事の見た目や香りにも配慮し、食欲をそそる工夫をすることが大切です。
食べることが何よりも楽しい体験になるように、彩りや盛り付けにも気を配りましょう。さらに、食事を提供する際には、食事の時間や環境にも注意を払います。
リラックスした環境でゆっくりと食事を楽しむことができるように心がけましょう。介護食は単なる栄養補給だけでなく、心の豊かさや生活の喜びを感じられるような工夫が欠かせません。
家族や介護士、医療従事者が協力して、食事を通じた豊かなコミュニケーションや生活の質の向上に努めましょう。
高齢者が楽しく食事をするための環境作り
高齢者が楽しく食事をするためには、食事を摂る環境も重要です。
まず、食事の場所は明るく、清潔で落ち着いた雰囲気が好ましいです。テーブルや椅子が安定しており、高さも適切なものを選ぶことで食事中の安全面も考慮できます。
また、食事をする時間帯やペースを尊重し、急がせないよう配慮することも大切です。会話を楽しめるような食卓を設けると、食事がより楽しくなります。食事の前後にはゆっくりとリラックスできる時間を確保しましょう。
さらに、食事の際には食べる量や種類にも配慮が必要です。大皿料理ではなく、小分けにしたり、好きなものを選べるようにすることで、食事をより楽しんでもらえます。その際、栄養バランスも考慮しましょう。
以上のような環境作りを心がけることで、高齢者が楽しく食事をすることができ、健康維持にもつながります。
安全な食事環境
高齢者の食事環境において、安全性を確保することは重要です。
まず、食事の際には転倒や滑りやすさを防ぐために、床の滑り止めマットを敷くなどの対策が必要です。
また、食事の際には、十分な明るさを確保し、見やすい食器やグラスを使用することで、食事を楽しむ上での安全性を高めることができます。食器は軽くて持ちやすいものを選ぶことも大切です。
さらに、嚥下機能に課題を抱える高齢者にとっては、食事中に喉につまらせないような食事の提供方法や、飲み込みやすい食材の選択も安全性を考慮した重要なポイントとなります。安全な食事環境の確保は、高齢者が食事を楽しむだけでなく、健康を維持する上でも欠かせない要素です。
高齢者の咀嚼と栄養のバランス
高齢者の咀嚼と栄養のバランスについて考える際には、食事の摂取量だけでなく、栄養バランスにも注意が必要です。
高齢者は消化器官や栄養素の吸収能力が低下しやすく、咀嚼によって食べ物を細かく砕き、消化吸収を促進する必要があります。咀嚼によって食べ物を細かくすることで、口腔内での消化が促進され、栄養素が効率よく吸収されます。
さらに、食事のバリエーションを豊富にすることも大切です。様々な色や味、食感の食材を取り入れることで、食事の楽しみや満足感が増し、食欲を促進します。栄養バランスが偏らないように、野菜、果物、たんぱく質源、炭水化物などをバランスよく摂取することが重要です。高齢者の健康維持や生活の質を向上させるためには、咀嚼と栄養バランスに配慮した食事が必要です。
1.栄養素のバランス
高齢者の食事における栄養素のバランスは重要です。
食事からバランスよくタンパク質、炭水化物、脂質、ビタミン、ミネラルを摂取することが大切です。タンパク質は筋肉や骨を維持し、炭水化物はエネルギー源として、脂質は栄養素の吸収を助けます。
ビタミンやミネラルは体の機能を維持するために必要です。食事を通じてこれらの栄養素をバランスよく摂取することで、健康な生活を送るサポートができます。
2.食事のタイミング
高齢者の食事のタイミングは重要です。
特に嚥下機能の低下などの理由で食事が時間を要する場合や、吸収能力が低下している場合には、時間をかけた食事が求められます。
食事を摂るタイミングとしては、朝食・昼食・夕食の3食の基本的な食事のほかに、間食を取ることも重要です。高齢者は1日のエネルギー摂取を3食でまかなうことが難しい場合がありますので、小腹を満たすための間食が必要です。
また、食事と睡眠との関係も考慮することが大切です。夕食を早めに取ることで、消化を助け、就寝時の胃もたれや消化不良を防ぐことができます。就寝前の間食や大量の水分摂取は避けるようにしましょう。
適切な食事のタイミングを意識することで、消化吸収を促進し、栄養の吸収や体調の維持につながります。
まとめ
今回は高齢者の咀嚼機能の重要性と安全で美味しい食事を楽しむ方法についてご紹介しました。
高齢者がしっかりと食事を摂るためには、食べやすい食材と咀嚼のサポート、適切な食事介助が欠かせません。
また、食事によって引き起こされる誤嚥を防ぐためには、柔らかくて、繊維が少ない食材を選び、適切な大きさにカットすることがポイントです。
高齢者の健康状態や生活の質を向上させるために、家族や介護士、医療従事者のサポートを受けて食事改善に力を入れていきましょう。
監修者
上田 稚子(Ueda Wakako) 管理栄養士
大学卒業後、管理栄養士として亜急性期病院にて幅広いライフステージ、様々な疾患に応じた栄養指導をしてきました。
現在は、名阪食品株式会社にて介護食ブランド「そふまる」の研究開発に携わっています。